2015年9月27日日曜日

通訳の仕事なめすぎ…ヘルシンキ市で開催予定のジャパンウィークが低賃金の謝礼でボラバイト募集中

10月21日から26日の間、第40回ジャパンウィークというイベントがヘルシンキで開催されます。これは公益財団法人国際親善協会(IFF)によって開かれるもので、日本文化を世界に伝え、その土地と交流するというもの。日本からは今年7月までパフォーマンスや展示などの出演/出展者を募っていました。





出演・出展者募集の案内資料(pdf形式)によれば、日本から出演、出展しようとすると、渡航費は自分で払わないといけない上に、参加料金として一人当たり3万円が必要でした。その参加料金は会場施設や「通訳やスタッフの経費」、運送費などに使用されるとのこと。

「通訳やスタッフの経費」なんて書いてありますが、名門ヘルシンキ大学のアジア研究コースの学生たちに送られてきた通訳スタッフボランティア募集メールによれば、支払われるのは人件費としては少なすぎる金額でした。





ジャパンウィークが募集しているのは、通訳とアシスタントの「ボランティア」。1時間当たり7ユーロ(約950円)の謝礼が「このイベントをヘルシンキ市と共に企画している財団法人国際親善協会から支払われ」るとのこと。

でもそこには大きな問題があります:


本来ならば参加者が通訳経費を払っているはずなのに、主催者はひどく安い賃金でボラバイトを募集している。




この問題から、気になる点を3点挙げていきます。

ひとつ:・高い能力を必要とする割の合わない低賃金のボラバイト・

ふたつ:・実際にフィンランドと日本の文化の架け橋となるのは質の悪い通訳かも・

みっつ:・参加費で通訳スタッフの費用を捻出してるはずなのに・



・高い能力を必要とする割の合わない低賃金のボラバイト・

この通訳の募集は「通訳スタッフ」ではなく「ボランティア」扱い。フィンランドには最低賃金の制度はありませんが、知識や経験がなくてもすることの可能なスーパーのレジだと時給12ユーロ(約1600円)、掃除のバイトでも9ユーロ(約1200円)ほどです。

フィンランドでは通訳の金額は最低でも手取りで一時間40ユーロ(約5400円)からです。これは以前別ブログにで批判した、鳥取市のタダ働き「鳥取市国際観光民間サポーター」と同じく、通訳が必要とする技術や知識を軽視して、正当な対価を払おうとせずに利益だけ得ようと言う姿勢です。

なお、ジャパンウィークで募集されているこのボランティア/ボラバイトの内容はこのとおり:

日本からのJapan Weekに参加する団体をホテルまで迎えに行っていただき、学校訪問の際に、披露する文化交流プログラムの説明、また、ワークショップの際の通訳とアシスタントをしていただけるボランティア

日本人には「日本語は難しい言語だ」と考える変な傾向があるようで、日本語をちょっとでも話すことのできる「外国人」には「日本語難しいのに喋れて凄いね」なんてよく言うにも関わらず、翻訳や通訳の能力は過小評価しています。世界の人口が70億人と言われる中で、日本語話者数は世界で1億人程度存在しますが、フィンランド語の話者は世界にわずか600万人程度しかおらず、その600万人のうちに日本語の通訳が可能な人がいる割合はかなり少ないはずです。一方、例えば英語話者は世界で7億人程度いるとされているので、英語~日本語通訳者なら安くても仕事を受ける人がいるかもしれませんが、フィンランド語と日本語の通訳という稀な技能を時間、労力、お金を費やして習得した人を、割にあわない金額で働かせようというのはもってのほか。フィンランドの通訳者は(英語はこの限りではありませんが)ほとんどが大学院卒だということも加えておきましょう。

また、安い金額で仕事を引き受けることは同業者の給料を下げることにもつながります。フィンランドでは字幕業界が低賃金化による翻訳の質の低下を招いているという問題もあります。

「それでも一時間に7ユーロの謝礼があるからいいじゃん」、「通訳できるならただでやってあげてもいいじゃん、減るもんじゃないし」と思う方もおられるかもしれませんが、これを読んでいる皆さんの仕事やバイト、専門知識を活用して普段ならお金をもらうはずのことを考えてみてください。誰かを「助ける」ためならまだしも、自分たちの事業のためにタダで働かせるなんて都合よすぎます。

しかも、みんながみんな完全なボランティアならまだしも、ちゃんと資料には「通訳やスタッフの経費」がジャパンウィークの参加費から取られていると書いてあるんです。だったらちゃんとお金を払ってあげるべきです。




・実際にフィンランドと日本の文化の架け橋となるのは質の悪い通訳かも・

もちろん、きちんとお金を払ったからといって、確認するすべがない限りは通訳がきちんと行われているのかはわかりません。でも、そもそも正当な対価を払っていないとなるとなおさら怪しいものです。映画『ロスト・イン・トランスレーション』で描かれているこのシーンは、能力のない通訳と、その能力を確認するすべのない雇い側とが揃えばどうなるのかを描いた恐ろしい情景です。この光景もきっとその元となる日本でひどい通訳の経験があって描かれるに至ったことでしょう。





ヘルシンキ大学の日本語コースはその厳しさと質の高さでも知られています。今回のボラバイト要請メールを受け取った同コースの学生らは「私達をバカにしているのか」と捉えており、参加する気はないようです。もちろん彼らだって、例えば「戦争により日本から難民が来た」などといった状況ならばボランティアで働いてくれるでしょう。しかしそれとこれとは状況が全く違うことは明白です。

レベルの高いヘルシンキ大学の学生たちが全員このボラバイトを断ったとすれば、もしかしたら映画『ロスト・イン・トランスレーション』に出てきたような質の低い通訳しか集まらない可能性があります。「でも流石に通訳がろくにできない人は雇わないだろう」とお考えかもしれませんが、ボラバイト募集メールは「フィンランド語~日本語」の通訳を募集していながらも、英語と日本語で書かれています。これはつまり募集している側にはフィンランド語と日本語の通訳能力を判断する能力がないことを示しています。

もしこれが英語と日本語の通訳ならば、義務教育で多少なりとも学んだ言語知識を使って単語程度は聞き取れるでしょう。でも「モイ!」と「キートス!」、「ムーミン」に「マリメッコ」くらいしか日本では知られていないフィンランド語。雇う側には知識が無くて通訳の質を確認できないにも関わらず、お金もろくに払わないつもりで果たしてまともな通訳者が見つかるでしょうか?



・参加費で通訳スタッフの費用を捻出してるはずなのに・

そもそも渡航費のほかにも参加者が払わないといけないジャパンウィークの参加費は、通訳やスタッフの経費にも充てられるはずじゃなかったんでしょうか?もしかしたら今回募集がかけられている翻訳ボラバイトとは別に正規の(=労働に見合った賃金を払われた)「通訳スタッフ」が存在するのかもしれません。でも参加者をホテルまで迎えに行ったりまでするボラバイト内容からも、このボラバイトのことを「通訳スタッフ」と考えても差し支えないはず。

これまでのジャパンウィーク参加者は、前述のPDFの以前の参加者と下の画像のヘルシンキでのジャパンウィーク参加者見込みによれば1000人前後。一人頭3万円なので、3000万円は会場経費、通訳やスタッフの人件費、貨物輸送費用に充てられるわけです。しかも、下画像の通りジャパンウィークはいろいろな団体が後援、助成、協賛する(予定)にもなっていますから、このプロジェクト全体ではもっと大きなお金が出ているはずです。





…それでも通訳ボラバイトは1時間につき7ユーロの謝礼しか出ないのです。現地通訳ボラバイトによって手伝ってもらうことになるのは実際に参加費を払っているジャパンウィークの参加者たちでしょう。そしてその「通訳やスタッフの経費」も自分で払っているつもりの参加者たちが、通訳の質により一番影響を受ける/被害を被るのです。そうなれば、サービスを受けるためにお金を払っているはずの参加者側も能力を過小評価されてボラバイトをする側も共に損をすることでしょう。

もし国際親善協会だけが特をしているとすれば大問題ですし、通訳やスタッフを正規の金額で雇うお金が無いなら計画が甘すぎます。



まとめ

・参加者は公益財団法人国際親善協会に「通訳やスタッフの経費」を含む参加費を払っている。

・公益財団法人国際親善協会は低賃金のボラバイトを雇おうとしている。

・通訳者としての資質と意識のある人たちはこのボラバイトをしようとしていない。

・そうなるとたぶん質の低い通訳しか集まらないが、主催者側には確認するすべがない。


つまり

・国際親善協会の通訳に対する姿勢・計画は甘すぎる




・提案・

そもそもちゃんとした通訳スタッフをちゃんとした金額で雇えないのであれば、参加費用を上げるとか、ちゃんと助成金を取ってくるなどすべき。それができないのであれば、日本から可哀想な通訳ボラバイトに旅費くらい出してやって連れて来てやるべき。



今回はまだ開催まで日にちがあるので、どうにかお金を支払うことも不可能ではないでしょう。だが、公益財団法人国際親善協会がもし、言語による意思の疎通を含めた国際親善を行いたいのであれば、通訳くらいは正当な対価を払って雇うべきであり、そうする意向がないのであれば、『ロスト・イン・トランスレーション』状態になっても仕方がありません。そしてそうなってもまだ国際親善を図ろうとするのであれば、日本の文化その他が間違って伝わってもしょうがないでしょうね。


批判があればコメント欄でどうぞ。


*実際に参加しての感想はこちらの投稿に記しています*

(画像は出演・出展者募集の案内資料(pdf形式)とJapan Week Helsinki 2015からのEメールからの引用)

(abcxyz)

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